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歯周病セルフチェック—放置するとどうなる?歯科医に聞く予防策
「自分は若いから大丈夫」「毎日歯を磨いているから問題ない」。そう考えて、歯磨きのときに見られる少しの出血など、お口からの小さなサインを見過ごしていませんか?しかし、歯周病は痛みなどの自覚症状がないまま進行し、静かに歯を支える骨を溶かしていく「沈黙の病気」として知られています。
実際に海外の研究では、自分はお口の健康に問題がないと感じている人の中に、実は歯周病が隠れているケースが非常に多いと報告されています。歯を失うだけでなく、糖尿病や心臓病、認知症といった全身の病気のリスクを高めることもわかっており、決して軽視はできません。
この記事では、まずご自身でできる簡単なセルフチェックリストで現状を確認し、歯周病を放置する本当の怖さと、歯科医が教える具体的な予防策を解説します。手遅れになる前に、あなたの大切な歯と全身の健康を守るための知識を身につけましょう。
もしかして歯周病?今すぐできるセルフチェックリスト7項目
「自分は若いから大丈夫」「毎日歯を磨いているから問題ない」 そのように考えている方も、少なくないのではないでしょうか。
しかし、歯周病は痛みなどの自覚症状がほとんどないまま、 静かに進行していく「沈黙の病気」として知られています。
実際に、海外の研究では自分の口の中は健康だと感じていても、 実は歯周病にかかっている方が非常に多いことが報告されています。 これは、初期段階では症状を自覚しにくいためです。
気づいたときには手遅れだった、ということにならないよう、 まずはご自身のお口の状態に関心を持つことが何より大切です。 以下の7つの項目に、当てはまるものがないか確認してみましょう。
【歯周病セルフチェックリスト】
- 歯磨きのときに出血する
- 歯ぐきが腫れていたり、赤黒かったりする
- 朝起きたとき、口の中がネバネバする
- 口のにおいが気になったり、家族に指摘されたりする
- 歯ぐきが下がり、歯が以前より長くなったように見える
- 指で押すと歯が少しグラグラと動く
- 歯と歯の間に食べ物が挟まりやすくなった
歯磨き時の出血や歯ぐきの腫れ・赤み
歯磨きのたびに歯ブラシに血がついたり、リンゴをかじると血が出たりする。 これらは、歯周病の代表的な初期サインであり、見過ごしてはいけません。
健康な歯ぐきは、引き締まったピンク色をしています。 そして、適切な力で歯磨きをしても、簡単に出血することはありません。
出血や腫れは、歯と歯ぐきの境目にたまった歯垢(プラーク)が原因です。 歯垢の中で歯周病菌が増殖し、歯ぐきに炎症を起こしている証拠なのです。 厳しい環境で暮らす人々を対象とした調査では、日々のケアが不十分なために、 歯周病が非常に高い割合で見られ、重症化しやすいことがわかっています。
出血や腫れは、お口が出している「助けて!」というSOSサインです。 出血を怖がって歯磨きを弱めてしまうと、原因である歯垢がさらにたまります。 その結果、炎症が悪化するという悪循環に陥ってしまいます。
<こんなサインに注意>
- 歯ブラシに血がにじむ 歯磨き後、うがいをすると水に血が混じることもあります。
- りんごなど硬いものをかじると、歯ぐきから血が出る 食べ物に血が付着するような場合は、注意が必要です。
- 歯ぐきが健康的なピンク色ではなく、赤黒くなっている 炎症が起きている歯ぐきは、うっ血して赤みが増します。
- 歯ぐきがブヨブヨと腫れぼったい感じがする 健康な歯ぐきにある、引き締まった感じがありません。
これらのサインに気づいたら、それは歯周病の始まりかもしれません。 放置せずに、一度歯科医院で相談することをおすすめします。
朝起きたときの口のネバつきや不快な口臭
朝起きたときに、お口の中がネバネバする。 あるいは、自分や家族から不快な口臭を指摘された。 これも、歯周病が原因で起こる症状の一つです。
歯周病が進行すると、歯と歯ぐきの間の溝(歯周ポケット)が深くなります。 深くなった溝は、歯周病菌にとって格好のすみかとなります。
これらの歯周病菌は、お口の中のタンパク質などを分解する過程で、 「揮発性硫黄化合物」という、腐った卵のような強いにおいのガスを発生させます。 これが、歯周病による口臭の主な原因物質です。
特に、眠っている間は唾液の分泌量が大幅に減ります。 唾液にはお口の中を洗い流す自浄作用があるため、その働きが弱まると、 細菌が爆発的に繁殖しやすくなります。 その結果、朝起きたときに口内のネバつきや口臭を強く感じるのです。
海外では、口腔ケアが十分に行き届いていない地域で、 多くの方が歯周病による口臭に悩まされていることがわかっています。 口臭やネバつきは、お口のトラブルを示す重要なサインなのです。
歯ぐきが下がり歯が長くなったように見える
「最近、鏡を見ると歯が長くなった気がする」 「歯と歯の間に、黒い三角形の隙間ができてきた」 もし、このような変化を感じたら注意が必要です。
これは、歯周病が進行し、歯を支えているあごの骨(歯槽骨)が、 溶かされてしまっているサインかもしれません。
歯周病菌が出す毒素によって歯ぐきに起きた炎症は、 放置されると、さらに奥深くにある歯槽骨にまで広がります。 骨は炎症によって少しずつ破壊され、溶けていきます。
歯を支える骨が溶けると、その上をおおっている歯ぐきも一緒に下がります。 これが「歯ぐきが下がる(歯肉退縮)」という状態で、 結果として歯の根っこの部分が露出し、歯全体が長く見えるのです。
残念ながら、一度溶けてしまった骨や下がってしまった歯ぐきは、 自然に元の健康な状態に戻ることはほとんどありません。
<こんな変化に注意>
- 鏡で見ると、以前より歯が長く見える 特に下の前歯などで感じやすい変化です。
- 歯と歯の間に、黒い三角形の隙間が目立つようになった 歯ぐきが下がることで、隙間が目立ってきます。
- 歯の根元が露出し、冷たい水や風がしみる(知覚過敏) 本来は歯ぐきに守られている象牙質が露出するためです。
- 食べ物が歯の間に挟まりやすくなった 歯ぐきが下がってできた隙間に、食べ物が詰まりやすくなります。
このような変化は、歯周病が自覚症状なく進行している証拠です。 手遅れになる前に、専門的な検査とケアを受けることが重要です。
歯がグラグラする、または食べ物が挟まりやすい
硬いものが噛みにくくなった、指で押すと歯が少し動く。 これらの症状は、歯周病がかなり進行している危険なサインです。
私たちの歯は、歯槽骨というあごの骨にしっかりと植えられています。 家で例えるなら、歯槽骨は建物を支える「基礎」の部分です。
しかし、歯周病が重症化すると、この歯槽骨の破壊が広範囲に進みます。 基礎が失われた家がグラグラするように、歯を支える土台がなくなると、 歯が動揺し始めるのです。
実際に、十分な歯科医療を受けられない海外の難民キャンプでは、 多くの人が重度の歯周病にかかっており、若くして歯を失っています。 歯がグラグラするというのは、歯が抜け落ちてしまう一歩手前の状態なのです。
この段階を放置すれば、食事中に硬いものを噛んだときだけでなく、 ある日突然、自然に歯がポロリと抜け落ちてしまうこともあります。 ここまで進行する前に、必ず歯科医院を受診してください。
歯肉炎との違いは?初期段階を見逃さないポイント
歯周病は、進行の度合いによって2つの段階に分けられます。 「歯肉炎(しにくえん)」と「歯周炎(ししゅうえん)」です。 この2つの決定的な違いを知ることが、手遅れを防ぐ鍵となります。
多くの人は、歯ぐきからの少しの出血を「たいしたことない」と考えがちです。 しかし、これこそが歯周病の始まりである「歯肉炎」のサインなのです。
海外の研究でも、自分はお口の健康に問題がないと思っている人の中に、 実は歯周病が隠れているケースが多いことが指摘されています。 歯肉炎の段階で適切なケアを始めれば、歯ぐきは健康な状態に戻せます。
しかし、これを放置して「歯周炎」に進行させてしまうと、 歯を支える骨の破壊が始まり、元に戻すことは非常に難しくなります。
比較項目 | 歯肉炎(まだ引き返せる段階) | 歯周炎(進行した歯周病) |
---|---|---|
炎症の範囲 | 歯ぐきだけに限定されている | 歯ぐきと、歯を支える骨にまで及んでいる |
骨の破壊 | なし | あり |
主な症状 | 歯ぐきの腫れ、赤み、出血 | 歯肉炎の症状に加え、排膿、強い口臭、歯のぐらつきなど |
回復 | 丁寧な歯磨きと歯科医院での清掃で、健康な状態に戻せる可能性がある | 専門的な治療が必要。失った骨は元には戻らない |
歯肉炎は、歯周炎への入口です。 この段階で食い止められるかどうかで、歯の寿命は大きく変わります。 自覚症状がなくても、定期的に歯科医院でチェックを受けましょう。 それが、歯周炎への進行を防ぐために非常に有効な方法です。
歯周病を放置する4つの深刻なリスク
「歯磨きの時に少し血が出るだけ」 そう考えて、歯ぐきからのSOSサインを見過ごしていませんか?
歯周病は、痛みなどの自覚症状がほとんどないまま静かに進行します。 そのため「沈黙の病気(サイレント・ディジーズ)」とも呼ばれています。 気づいたときには、歯を支える骨が溶けて手遅れ、ということも少なくありません。
歯周病はお口の中だけの問題だと考えられがちです。 しかし、実際には全身の健康に深刻な影響を及ぼすことがわかっています。 ここでは、歯周病を放置した場合に起こりうる、4つの重大なリスクを解説します。
進行度別の症状:歯が抜け落ちるまでの過程
歯周病は、ある日突然ひどくなるわけではありません。 時間をかけて少しずつ進行し、歯を支える土台である骨を破壊していきます。 進行の段階によって症状も変わるため、ご自身の状態と照らし合わせてみましょう。
進行度 | 主な症状 | お口の中の状態 |
---|---|---|
初期(歯肉炎) | ・歯磨きの時に出血する ・歯ぐきが赤く腫れる |
歯を支える骨に影響はなく、まだ引き返せる段階です。 丁寧な歯磨きと歯科医院での清掃で改善が期待できます。 |
中期(軽〜中等度歯周炎) | ・歯ぐきが下がり、歯が長く見える ・口臭が強くなる ・冷たいものがしみる ・歯ぐきから膿が出ることがある |
歯と歯ぐきの間の溝(歯周ポケット)が深くなります。 歯を支える骨が溶け始めており、専門的な治療が必要です。 |
重度(重度歯周炎) | ・歯がグラグラする ・硬いものが噛みにくい ・歯並びが変わってきた ・自然に歯が抜け落ちる |
歯を支える骨が大きく失われ、歯の土台が非常に不安定です。 歯を残すことが難しくなる場合もあります。 |
海外の厳しい環境で暮らす人々を対象とした調査は、衝撃的な結果を示しています。 バングラデシュの難民キャンプでは、住民の歯周病有病率が100%でした。 これは、口腔ケアが不十分な環境では誰もが歯周病にかかることを意味します。 さらに、住民と比較して重症化する傾向も報告されています。
この研究結果は、日々のセルフケアと専門家によるケアがいかに重要かを示唆します。 初期のサインを見逃さず、適切なケアを始めることが歯を守るための鍵です。
全身への影響:糖尿病の悪化や心臓病・脳梗塞のリスク
歯周病は、決してお口の中だけで完結する病気ではありません。 歯周病菌や、菌が出す毒素が歯ぐきの血管から体内へ侵入します。 そして、血液の流れに乗って全身を駆け巡り、様々な病気を引き起こします。
【歯周病と関連が深いとされる主な病気】
- 糖尿病 歯周病による炎症は、血糖値を下げるホルモン(インスリン)の働きを妨げます。 そのため、歯周病の治療で血糖コントロールが改善することがあります。 逆に、糖尿病の方は歯周病が悪化しやすく、互いに影響し合う関係にあります。
- 心臓病・脳梗塞 歯周病菌が血管の壁に付着すると、動脈硬化を促進する物質が作られます。 動脈硬化が進むと血管が狭くなり、血液の通り道が塞がれやすくなります。 その結果、心筋梗塞や脳梗塞といった命に関わる病気のリスクを高めます。
お口の健康を守ることは、全身の重大な病気を予防することに直結します。 定期的な歯科検診は、お口だけでなく、全身の健康を守るためにも重要です。
認知症や誤嚥性肺炎との関連性
近年、歯周病と脳の健康や呼吸器の病気との関連も注目されています。 特に、ご高齢の方やそのご家族にとっては見過ごすことのできないリスクです。
- 認知症との関連 歯周病によって体内で続く慢性的な炎症が、脳の機能に影響を与えます。 これが、アルツハイマー型認知症の発症や進行の一因となる可能性が指摘されています。 また、歯を失うと「噛む」という行為が減ります。 噛むことは脳へ多くの刺激を送り血流を促すため、脳の活性化に重要です。 歯を失うことが、脳の老化につながる可能性も考えられています。
- 誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)との関連 誤嚥性肺炎とは、食べ物や唾液が誤って気管や肺に入ってしまうことです。 お口の中に歯周病菌が多いと、唾液と一緒に菌が肺へ流れ込みます。 その結果、肺で炎症が起こり、肺炎を発症するリスクが高まります。 特に飲み込む力が弱くなった方では命に関わるため、日々の口腔ケアが不可欠です。
妊娠中の女性が注意すべき早産・低体重児出産への影響
妊娠中の女性は、ホルモンバランスの変化により歯周病になりやすい時期です。 つわりで歯磨きが難しくなったり、食生活が不規則になったりすることも一因です。 妊娠中の歯周病は、お母さんだけでなく、お腹の赤ちゃんにも影響を及ぼします。
歯周病菌によって作られた炎症物質が、お母さんの血液中に入ります。 この物質が子宮に到達すると、子宮の収縮を促す信号となることがあります。 その結果、「早産」や、赤ちゃんが小さく生まれる「低体重児出産」のリスクが高まることが複数の研究で報告されています。
妊娠を計画している段階から、お口のチェックを受けておくことが理想的です。 安定期に入ったら歯科検診を受けるなど、計画的な口腔ケアを心がけましょう。 予防のためのケアは、将来の健康を守り、高額な治療費を避けることにもつながります。 お母さんと赤ちゃんの健康を守るためにも、ぜひ歯科医院にご相談ください。
歯科医が教える歯周病を防ぐための5つの基本対策
「最近、歯ぐきから血が出る」「口の臭いが気になる」 もし、このようなお悩みがあれば、それは歯周病のサインかもしれません。
歯周病は、自覚症状が少ないまま静かに進行する病気です。 気づいたときには、歯を支える骨が溶けて手遅れ、ということも少なくありません。
しかし、歯周病は日々の正しいケアと専門家によるサポートで、 十分に予防し、進行を食い止めることができる病気でもあります。 あなたの大切な歯を未来まで守るための、5つの基本対策を具体的にお伝えします。
毎日のセルフケア:歯ブラシ選びと正しい歯磨き方法
歯周病予防の基本は、何と言っても毎日の歯磨きです。 しかし、ただ時間をかけて磨くだけでなく、「質の高い歯磨き」が重要です。 まずは、毎日使っているご自身の歯ブラシから見直してみましょう。
【歯ブラシ選びの3つのポイント】
- ヘッドの大きさ 小回りがきく小さめのヘッドがおすすめです。 大きすぎると、奥歯の裏側など届きにくい場所にブラシが当たりません。
- 毛の硬さ 基本は「ふつう」ですが、歯ぐきが腫れて出血しやすい方は「やわらかめ」を選びましょう。 硬すぎるブラシは、歯や歯ぐきを傷つけてしまう原因になります。
- 交換時期 ブラシを裏側から見て、毛先がヘッドからはみ出して見えたら交換のサインです。 約1ヶ月を目安に新しいものに替えましょう。 開いた毛先では、汚れをしっかり落とす力が大きく低下してしまいます。
次に、歯周病菌が潜む「歯と歯ぐきの境目の溝(歯周ポケット)」を狙う、 正しい磨き方を身につけましょう。
【質の高い歯磨きの方法】
- 当てる角度 歯と歯ぐきの境目に、45度の角度でブラシを優しく当てます。 この角度で、溝の中に毛先が入りやすくなります。
- 動かし方 5〜10mm程度の幅で、小刻みにブラシを動かします。 ゴシゴシと力を入れて大きく動かすのは絶対にやめましょう。
- 力の入れすぎに注意 鉛筆を持つくらいの軽い力で磨くのがコツです。 歯ブラシの毛先が広がらない程度の優しい力で十分です。
特に、磨き残しやすい「奥歯のかみ合わせ」「歯の裏側」「歯並びが悪いところ」は、 意識して丁寧に磨くことを心がけてください。 毎日の丁寧なケアが、歯垢(プラーク)の蓄積を防ぎ、健康な口内環境の土台となります。
歯間ケアの重要性:デンタルフロス・歯間ブラシの正しい使い方
実は、歯ブラシだけで落とせる汚れは、お口全体の約60%と言われています。 残りの約40%の汚れは、歯と歯の間に残ってしまいます。
歯と歯の間は、歯周病が始まりやすい場所の一つです。 そこで活躍するのが、デンタルフロスや歯間ブラシといった歯間ケア用品です。
【デンタルフロスの使い方】
- 約40cm(ひじから指先くらい)の長さにフロスを切り、両手の中指に巻きつけます。
- 親指と人差し指でフロスをつまみ、1〜2cmの長さにピンと張ります。
- ゆっくりと、のこぎりを引くようにして歯と歯の間に通します。
- 歯の側面に沿わせ、歯ぐきの少し下まで挿入し、上下に数回動かして汚れをかき出します。 隣の歯の側面も忘れずに行いましょう。
【歯間ブラシの使い方】
- 歯ぐきを傷つけないよう、歯と歯の隙間に合ったサイズのブラシを選びます。 スムーズに入るサイズが適切です。ご自身に合ったサイズを選ぶために、歯科医院で相談することをおすすめします。
- 歯と歯の間にゆっくりと挿入し、水平に数回往復させて磨きます。 無理にねじ込んだり、回したりしないようにしましょう。
使い始めは、炎症のある歯ぐきから出血することがあります。 しかし、これは悪い血が出ているわけではなく、そこに炎症があるというサインです。 多くの場合、正しいケアを続けることで炎症が改善し、出血は自然に収まります。 もし出血が長く続く場合は、自己判断せず歯科医院に相談しましょう。
プロによる専門的ケア:PMTCとスケーリングの効果
毎日のセルフケアを完璧に行っていても、全ての汚れを落としきることは困難です。 特に、歯の表面に強く付着した「バイオフィルム」や、硬く石化した「歯石」は、 ご自身の歯ブラシで取り除くことは困難です。
- バイオフィルム 細菌が作ったネバネバの膜です。お風呂の排水溝のぬめりを想像すると分かりやすいです。 この膜に守られて、細菌はどんどん増殖していきます。
- 歯石 歯垢が唾液に含まれるカルシウムなどで固まったものです。 一度できてしまうと、石のように硬く、歯ブラシで取り除くことは非常に困難です。
そこで重要になるのが、歯科医院で行うプロフェッショナルケアです。
【スケーリング】 「スケーラー」という専用の器具を使い、歯の表面や歯周ポケットの中に付着した、 歯石を徹底的に除去する処置です。歯周病菌のすみかを取り除く、治療の基本です。
【PMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)】 専門の器具とフッ素入りのペーストなどを用いて、歯の表面の汚れやバイオフィルムを、 徹底的に清掃・研磨する処置です。歯の表面がツルツルになり、汚れの再付着を防ぎます。
これらの専門的なケアは、歯周病の予防や進行を食い止める基本となります。 最近の研究では、このような基本的な治療を補助する目的で、 薬草由来の成分が持つ抗炎症作用や抗菌作用が歯周病ケアに役立つ可能性も探られています。 これは将来の選択肢の一つですが、まずは歯石などをしっかりと取り除くことが重要です。
食生活の見直し:歯周病リスクを高める砂糖や喫煙の習慣
お口の健康は、日々の生活習慣と深くつながっています。 歯周病のリスクを高める習慣として、特に注意したいのが「食生活」と「喫煙」です。
【食生活で気をつけるポイント】
- 糖分の多い食事 砂糖は歯周病菌の大好物です。菌に栄養を与え、歯垢の形成を促します。 甘いお菓子やジュースを時間を決めずにだらだらと摂る習慣は避けましょう。
- バランスの良い食事 歯や歯ぐきを丈夫にするためには、ビタミンやミネラルなどが必要です。 特定の食品に偏らず、バランスの取れた食事を心がけましょう。
- よく噛んで食べる 噛む回数が増えると、天然の洗浄液である「唾液」の分泌が促されます。 唾液には、口の中の細菌や食べかすを洗い流す大切な働きがあります。
【喫煙がもたらす深刻なリスク】
喫煙は、歯周病の重要な危険因子の一つです。 タバコに含まれるニコチンは、歯ぐきの血管を収縮させ、血行を著しく悪化させます。
血行が悪くなると、歯ぐきに十分な酸素や栄養が届きません。 さらに、歯周病菌と戦う体の免疫細胞も患部にたどり着きにくくなります。 その結果、細菌に対する抵抗力が弱まり、歯周病が非常に進行しやすくなるのです。
この悪影響は、失った歯を補うインプラント治療にも及びます。 ある研究レビューでは、インプラントを長持ちさせるには、禁煙が重要だと報告されています。 ご自身の歯を守るためにも、インプラント治療を考える上でも、禁煙することが強く推奨されます。
定期検診の重要性:再発防止と全身の健康維持の鍵
歯周病は、治療が終わっても油断できない「生活習慣病」の一種です。 一度改善しても、日々のケアを怠れば、簡単に再発してしまいます。 治療後の良い状態を維持し、再発を防ぐためには、定期的な歯科検診が欠かせません。
症状がないからといって歯科医院から足が遠のくと、 気づかないうちに再び歯周病が静かに進行してしまう可能性があります。
【定期検診の4つの大切な目的】
- お口のプロによる大掃除 毎日の歯磨きでは取りきれない歯石やバイオフィルムを専門的に除去します。
- わずかな変化の早期発見 歯周ポケットの深さや歯ぐきの状態などを細かくチェックし、再発の兆候を見逃しません。
- 歯磨き方法の再確認 ご自身の磨き方のクセや苦手な部分を指摘し、より効果的なケア方法をアドバイスします。
- 重症化の防止 万が一、再発の兆候があっても、早い段階で対応することで大ごとになるのを防ぎます。
これは、インプラント治療後においても同様です。 インプラントを長く機能させるためには、定期的なメンテナンスが非常に重要とされています。 ご自身の歯もインプラントも、守るための基本は同じです。
3ヶ月から半年に一度の定期検診を習慣にしましょう。 それが、お口の健康、そして糖尿病や心臓病といった全身の病気を予防する鍵となります。
まとめ
今回は、ご自身でできる歯周病のチェック方法から、放置した場合の深刻なリスク、そして歯科医が推奨する予防策まで詳しくご紹介しました。
セルフチェックで当てはまる項目があった方はもちろん、今は症状がない方も、歯周病は痛みなく静かに進行する「沈黙の病気」です。歯ぐきからの小さなSOSサインを見過ごしていると、気づいたときには歯を失うだけでなく、糖尿病や心臓病といった全身の健康を脅かすことにも繋がりかねません。
しかし、歯周病は日々の正しいセルフケアと、プロによる定期的なメンテナンスで十分に予防できる病気でもあります。少しでも不安を感じたら、手遅れになる前にぜひ一度、お近くの歯科医院へ相談してみてください。それが、あなたの大切な歯と未来の健康を守るための、重要な第一歩になります。
参考文献
- Osuh ME, Oke GA, Lilford RJ, Osuh JI, Harris B, Owoaje E, Lawal FB, Omigbodun A, Adedokun B and Chen YF. “Systematic review of oral health in slums and non-slum urban settings of Low and Middle-Income Countries (LMICs): Disease prevalence, determinants, perception, and practices.” PloS one 19, no. 11 (2024): e0309319.
- Aida J, Ishimaru M and Kino S. “Reconsidering economic interventions to reduce oral health inequalities.” Community dentistry and oral epidemiology 51, no. 4 (2023): 600-605.
- Arai Y, Takashima M, Matsuzaki N and Takada S. “Marginal bone loss in dental implants: A literature review of risk factors and treatment strategies for prevention.” Journal of prosthodontic research 69, no. 1 (2025): 12-20.
- Zaheer K, Hossain MJ, Isha I, Delgado-Angulo E and Nibali L. “Prevalence and severity of periodontal disease in the host community and Rohingya refugees living in camps in Bangladesh.” Community dentistry and oral epidemiology 52, no. 6 (2024): 817-823.
- Pasupuleti MK, Nagate RR, Alqahtani SM, Penmetsa GS, Gottumukkala SNVS and Ramesh KSV. “Role of Medicinal Herbs in Periodontal Therapy: A Systematic Review.” Journal of International Society of Preventive & Community Dentistry 13, no. 1 (2023): 9-16.
追加情報
[title]: Systematic review of oral health in slums and non-slum urban settings of Low and Middle-Income Countries (LMICs): Disease prevalence, determinants, perception, and practices.
低・中所得国におけるスラムと非スラム都市環境の口腔健康に関する系統的レビュー:疾患の有病率、決定要因、認識、および実践 【要約】
- 低・中所得国(LMICs)のスラムおよび非スラム都市環境における口腔疾患の負担、その決定要因、認識、実践、およびサービス利用に関する最新のエビデンスを要約することを目的とした系統的レビュー。
- 2000年1月から2023年6月にかけて、Embase、MEDLINE、PubMedなど複数のデータベースを検索し、スラム関連用語を用いて文献を収集。様々なデザインの経験的研究が対象となり、英語で発表され、全文が利用可能で、スラム居住者の口腔健康に関する疾患の負担、認識、行動、およびサービス利用について報告している研究が対象となった。
- 56件の論文の全文を評価し、23件の論文をレビューに含めた。アジアでの研究が13件(57%)、アフリカでの研究が9件(39%)を占めた。研究対象地域は、スラムに焦点を当てたもの、スラムと非スラム都市環境の両方を含めたもの、農村部と都市部を含めたものなど多様であった。
- 報告された最も一般的な口腔疾患は、う蝕(有病率:13%〜76%)と歯周病(有病率:23%〜99%)であった。これらはスラム地域でより高く、年齢層、性別、社会経済階級によって違いが見られた。
- 参加者の多くは自身の口腔健康状態を良好と認識しており、この傾向は若年層、男性、社会経済階級が高い者、雇用されている者に多く見られた。
- 口腔清掃は主に1日1回、通常は朝に行われた。歯磨き粉と歯ブラシの使用が最も一般的であったが、歯磨き粉、歯みがき棒、ニーム、木炭、砂、嗅ぎタバコ、塩、指など、他の口腔衛生用品も使用されていた。
- 口腔疾患の治療や予防のために家庭療法が広く行われていた一方、専門の歯科医療施設の利用は一般的に低く、問題が発生した時だけ利用する傾向が見られた。
- この系統的レビューでは、LMICsのスラムおよびその他の都市環境における口腔健康調査に関する文献が少ないことが明らかになった。入手可能なデータは、口腔疾患の負担が大きく、特にスラム地域で深刻であり、不適切な口腔清掃用具の使用、痛みを緩和するための自己ケアの実践、および医療施設への受診が少ないことを示唆している。 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39514587
[quote_source]: Osuh ME, Oke GA, Lilford RJ, Osuh JI, Harris B, Owoaje E, Lawal FB, Omigbodun A, Adedokun B and Chen YF. “Systematic review of oral health in slums and non-slum urban settings of Low and Middle-Income Countries (LMICs): Disease prevalence, determinants, perception, and practices.” PloS one 19, no. 11 (2024): e0309319.
[title]:
口腔保健格差を減らすための経済的介入を再考する 【要約】
- 社会的な保健格差を引き起こす上流の原因として、経済的要因が一般的に認識されている。
- 健康を改善し、格差を減らす介入は、近隣の保健原因に注目する傾向がある。
- しかしながら、最近の社会経済危機が経済的要素に重点を置くことを増加させている。
- 経済的要因に対処するための健康関連アプローチは、(1)間接的アプローチと(2)直接的アプローチの2つに分類できる。
- 間接的アプローチでは、歯科治療を受けるための財政的支援や、健康に悪影響を与える商品を対象とした財政政策などがある。
- 直接的アプローチでは、キャッシュトランスファーやユニバーサルベーシックインカムの提供などがある。
- 間接的アプローチでは、自己負担を減らす政策が、サービスへのアクセスの改善や口腔保健格差の削減に関連していることが示唆されている。
- タバコや砂糖を対象とした価格政策は、歯周病やむし歯の減少に関連しており、砂糖課税政策は口腔保健格差の削減に効果的であることが示唆されている。
- 直接的アプローチについては、低所得の個人へのキャッシュトランスファーの研究では、歯科診療の訪問率には肯定的な影響は見られず、むし歯予防に関する結果は不確定であったことが分かっている。
- 人口アプローチに基づく所得保障の研究は、口腔保健については行われておらず、因果推論手法や自然実験を用いた研究が必要である。
- 口腔保健格差に関する経済的介入の研究は限られており、因果推論手法や自然実験を用いた研究が急切に必要である。 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37282745
[quote_source]: Aida J, Ishimaru M and Kino S. “Reconsidering economic interventions to reduce oral health inequalities.” Community dentistry and oral epidemiology 51, no. 4 (2023): 600-605.
[title]: Marginal bone loss in dental implants: A literature review of risk factors and treatment strategies for prevention.
歯科インプラントにおける辺縁骨吸収:リスク因子と予防のための治療戦略に関する文献レビュー 【要約】
- 歯科インプラント設置とアバットメント接続後、歯根周囲の頸部骨に辺縁骨吸収(MBL)が生じる。MBLは必ずしも歯周炎を招くわけではないが、常にMBLを伴う。最近の研究では、早期のMBLが歯周炎の予測因子であることが示されている。本レビューでは、臨床医がMBLを予防するための推奨治療戦略のエビデンスを提供することを目的とした。
- 本レビューは最近の文献をレビューし、インプラント辺縁骨吸収に関する既存の系統的レビューとメタアナリシスに焦点を当て、エビデンスの記述的合成を行った。
- 既存のエビデンスは、特定の生物学的、材料的、技術的要因がMBLに影響を与え、結果として将来における歯周病のリスクを決定する可能性を示している。各因子の影響力の強さの順序は不明である。MBLを予防するための現在の推奨事項には、手術前および生涯を通じて、患者の喫煙とヘモグロビンA1cレベルを十分に低いレベルに制御することが含まれる。材料に関しては、プラットフォームスイッチング、円錐接続インプラントシステム、および少なくとも2mmの高さを有するアバットメントを選択する必要がある。配置は、十分な軟組織(ケラチン化歯肉幅>2mm、上皮上組織高>3mm)を確保する技術を用いて行い、一次手術または二次手術の際に、連結した凹型アバットメントを用いて皮質骨に過小な調製を行わないようにする必要がある。患者は、維持療法中に支持的なインプラント周囲療法を受ける必要がある。
- MBLの発症は多要因であり、生物学的、材料的、技術的要因を考慮することで軽減できる。 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38925986
[quote_source]: Arai Y, Takashima M, Matsuzaki N and Takada S. “Marginal bone loss in dental implants: A literature review of risk factors and treatment strategies for prevention.” Journal of prosthodontic research 69, no. 1 (2025): 12-20.
[title]: Prevalence and severity of periodontal disease in the host community and Rohingya refugees living in camps in Bangladesh.
バングラデシュ難民キャンプにおけるロヒンギャ難民と居住地の住民の歯周病の有病率と重症度 【要約】
- バングラデシュのロヒンギャ難民と居住地の住民における歯周病の有病率と重症度を評価することを目的とした研究。
- 難民キャンプから50人、居住地から50人の参加者を2段階クラスタサンプリング法で選抜。構造化された質問票と歯周検査を実施。歯周病の複合尺度は、世界ワークショップ(WW)と疾病管理予防センター(CDC)-アメリカ歯周病学会に基づいた。臨床付着レベルと歯周ポケット深さ(PPD)に対する線形回帰モデル、複合尺度に対する順序ロジスティック回帰モデルを用いて、歯周疾患の尺度と難民の地位との関連性を検証した。
- 居住地の住民と比較して、難民は良好な口腔衛生関連行動を報告する割合が少なかった。難民はプロービング出血のレベルが低かったが、PPDは高かったため、重症歯周炎の割合が高かった。WWによると、歯周病の有病率は、居住地の住民で88%、難民で100%であった。調整されていないモデルでは、難民は重症歯周炎になる可能性が3倍高かったが、交絡因子(社会人口統計学的変数と口腔衛生関連行動)を調整すると、この関連性は弱まった。
- 居住地の住民と難民の両方で歯周炎の有病率が高かった。難民はより重症の疾患像を示した。両集団の口腔衛生は十分に研究されておらず、保健システムの対応に影響を与えている。両集団の口腔衛生を体系的に調査する大規模な研究は、地域社会ベースの介入の設計と実施に役立つだろう。 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38898593
[quote_source]: Zaheer K, Hossain MJ, Isha I, Delgado-Angulo E and Nibali L. “Prevalence and severity of periodontal disease in the host community and Rohingya refugees living in camps in Bangladesh.” Community dentistry and oral epidemiology 52, no. 6 (2024): 817-823.
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歯周疾患治療における薬草の役割:システマティックレビュー 【要約】
- キーポイント1:薬草は、抗炎症作用や抗酸化作用などの特性により、歯肉炎や歯周病予防に利用されることがある。
- キーポイント2:PubMed、Scopus、Web of Scienceの三つのデータベースを用いて2010年から2022年に発表された研究論文、事例報告書、システマティックレビューを対象に、薬用植物の口内ケアにおける適用についての文献を収集した。
- キーポイント3:726件の論文のうち、8件の研究論文と6件のレビューが取り上げられた。薬用植物の抗菌性はアルカリ性によってもたらされ、唾液の酸アルカリ平衡を維持することで歯垢や歯石の形成を防ぐ。多くの薬用植物の部位が歯周健康維持に役立つことが明らかとなった。
- キーポイント4:グリチルリザ、ピーマンおよびウグイスカグラ、ツクバネウラシマタデ、トウモロコシ、アロエバルバデンシス、クローバーなど、多くの植物が歯周病を治療するために有用である。
- キーポイント5:薬草から抽出された成分には抗炎症、抗酸化、抗菌、収斂作用があるため、スケーリングや根面治療法の補助として、現代薬の代替医療として有望な可能性がある。https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37153928
[quote_source]: Pasupuleti MK, Nagate RR, Alqahtani SM, Penmetsa GS, Gottumukkala SNVS and Ramesh KSV. “Role of Medicinal Herbs in Periodontal Therapy: A Systematic Review.” Journal of International Society of Preventive & Community Dentistry 13, no. 1 (2023): 9-16.